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drive

 必然と偶然の違いは、ただその未来を予想し得るための思考力が存在するか否かだ、と彼は笑う。


 暗闇。寝台。窓の外――月明かり。
 さ、と雲の切れ目からあらわれた月の光に、ロロは窓の外を見上げた。ひとつ、ふたつ、と瞬くうちに、あっという間に月は雲の中に飲み込まれる。その光は昼間の太陽に比べてずっと淡く、儚い。まるで気紛れのように冷たい光で地上を見下ろすかと思えば、次の瞬間には跡形もなく雲の中へ消えてしまう。ようやくあらわれたかと思えば、朝には太陽の眩しさを厭うかのように空の青さに溶けてしまう。
(あのひと)
(みたい)
 その光も、冷たさも、感情の起伏の激しささえ似ている、とロロは目を伏せる。
 かしり、と手元のロケットを手のひらに握りこんだ。白地に金の縁取り。ロロの中にもある、脈動と愛おしさの象徴を象ったロケットは、まるで月の光を帯びているかのように酷くつめたい。縁取りを指でなぞりながら、もう一度窓の外を見上げる。月はまだ見えない。
(まだ、かな)
 窓の外から続く空のどこかで、ロケットの贈り主は闘っている筈だった。己の生きるための理由、その存在を再び手にするために。彼女を護ること、彼女がよりよく生きられる世界を構築することが、彼の、しいてはゼロの行動理念の先にあるものであるということを、ロロは誰より正しく知っている。
 だが、それを思うたびに、ロケットに象られた象徴――己の心臓が、きしきしと小さく軋むのを感じる。この軋みは何だろう。ルルーシュが再びゼロとしての記憶を取り戻し、ナナリーの存在を思い出したときからずっと感じている耳障りな音――。

 学園の屋上。
 階下で行われるダンスパーティーの音楽も、人々の喧騒も、何も耳には入らなかった。
 遠ざかる足音。
 白き騎士が去ったことを確認してから再び姿をあらわした自分を、改めて彼は振り向こうとはしなかった。
 ただ、ロロか、と唇で呼んだ。
「さっきは助かった。完全にイレギュラーだ」
 階下からの風で、漆黒の髪がさらりと揺れる。その隙間から垣間見える瞳の色は、感情をレンズに隠す紫色。ゆっくりと地上へ下ったその視線は、いったい誰を見ているのか、などと問う野暮は侵したくなかった。
 ふ、とその瞳に悲しみと怒りの色がともる。
「スザクめ……ナナリーを――総督に」
「奪還しますか」
 それとも。
 殺しますか。
 そう呟く前に、ルルーシュは答える。
「無論」
 その指先が震えるのを、ロロは見逃さない。
「これ以上ナナリーが利用されるのを黙って見ているわけにはいかない」
 ナナリーが、と繰り返し、ルルーシュは震えた指先を握りこんで黙った。
 その横顔をロロは見つめる。
 己の名を呼んだ、その同じ唇で、いとおしげに呼ばれる『本物』の名前。
 偽りでも、一瞬だったとしても、かつて己がいた場所に、己が入れないという苛立ち――

 それは心臓よりずっと奥深く、決して素手では触れない部分から湧き上がり、今もやまない。
 胸を乱暴に掴み、息を整える。痛みに似た軋みは、そうしてもまだ薄らがない。
 多分、この軋みの根元にあるものを、ロロは気付いている。それでいて、知らないでいたいとも願っている。
 己の心臓の奥、己でさえ触れられない場所に沸き起こるそれは、
(決して叶わない)
(ゆめ)
 かしり、とロケットを掌から開放する。
(だから)
  
 不意に、部屋の扉が音を立てて開いた。
 部屋の向こう、廊下もまた、暗闇。
「誰?」
 す、と反射的に銃器に手を伸ばしながら問うと、気配を隠そうともしない存在がひとつ、細かく震えながら、一歩近づく。月明かりを待つでもなく、すぐにロロにはその気配の主が分かった。闇に紛れる黒衣装は、存外闇に慣れた目には分かりやすい。
「にいさん」
 銃器を置いて、ベッドから降りる。
 歩み寄ると、見間違いではなく、やはりルルーシュが小刻みに体を震わせているのが分かった。
「兄さん、どうしたの」
 手を伸ばすと、その体がびくりと震える。足元を見つめていた顔がロロを見る――酷い汗だ。それを拭うでもなく、ルルーシュは呆然と立ち尽くしている。
 からん、と、ゼロの仮面が床に転がり落ちた。
「ロロ、ナナリーが――」
「兄さん」
「ナナリーが……スザクを……っ」
 俺ではなくスザクを、と繰り返すルルーシュの背を、ロロはそっと抱く。
「兄さん」
「俺は……、俺は何のために――っ」
「兄さん」
「ナナリー……ナナリー……っ」
「――にいさん」
 耳障りな声を遮って、ロロは兄を抱く腕に力をこめる。





「兄さん、僕がいるよ」








 素肌にシャツを羽織り、脱ぎ散らかしたままのズボンを履いて廊下に出る。
 月の光に洗われたシャツの冷たさに顔を顰めながら、部屋の扉を閉めたところで、壁によりかかる少女の姿に気付いた。
 どこにでも現れ、どこにでも消える。己の本来の任務対象であったはずのこの少女を、しかしまだロロは良く知らない。
 何の用だ、と問おうとして、先に言葉を盗まれる。
「お前も残酷なやつだな」
 壁によりかかったままで、少女は笑う。
「あんな方法をとらずとも、ルルーシュはお前を捨てたりしないのに」
 くくくっとしのび笑う声が廊下に響く。
 ロロは掌に携えた携帯電話――それに繋がれたロケットに視線を移した。
 己のギアスを用いれば、スザクがアッシュフォード学園に復学した理由も、そこで起こす行動も、携帯電話の履歴や手持ちの書類から簡単に突き止めることが出来た。
 あの日。
 己のギアスを使うことで、ルルーシュがナナリーと繋がり、そこから奪還への思いを強くすることも、その結果として起こした行動が決して成功しないであろうことも、ロロは知っていた。
 ロロは、ナナリーが己の希望でユーフェミアの遺志を継ぎ、総督に就任を決めたことを既にデータとして知っていたのだ。
 それを言わなかったのは、無論、今この状況が、ロロが望むものに他ならなかったからに違いない。
 かくしてルルーシュは傷つき、絶望し、ロロの腕の中で堕ちた。
(兄さん、僕が)
(ロロ)
(僕だけが、あなたの)
 C.C.の冷たい声が遮る。
「お陰でルルーシュは海と衝突する五秒前だった。……お前のせいだ」
「なら」
 無意識にロケットを指先で触れる。
「殺せばいいでしょう。あなたなら、それができるはずだ」
 そう言い捨て、再び歩き始めようとしたロロの足取りを、少女の笑い声が一瞬遅らせる。
「分からないか、ロロ」
 息をつくように笑って、少女は目を伏せる。
 

「お前もまた、あいつにとって『生きる理由』のひとつらしいからな」


 その答えに、少年は兄によく似た瞳で小さく笑む。
(いつか僕が)
(僕だけが)
(そうであればいい)
 ロケットを握りなおすと、掌の中で小さく、悲鳴にも似た音がした。


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ふははははは。
文字制限で拍手に引っ掛かったのでこちらにアプ。
何であんなところにロロが!とか思ったのは私だけでしょうか。
総て計算された上でのあのギアス、だったのならロロってルルマスターだわんとか思ったのでタイトルは「drive:左右する、操作する」
何だか書きたいことが書ききれなかったのだけれど時間切れ。色々と。
02:30 | 小話 | comments(0) | trackbacks(0) | author : 皆月
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